15. ロイコトリエン C4, D4 結合実験   

「はじめに---注意点」

 ペプチド性ロイコトリエンは、あらゆる組織内で LTC4, LTD4, LTE4 の順に代謝され得るので、LTC4 や LTD4 の結合実験では、各代謝酵素の阻害剤を反応液中に加えて、測定中のロイコトリエンの代謝を抑制する必要が有る。具体的には、LTC4 は膜結合型酵素である γ-glutamyltranspeptidase (俗に γ-GTP と呼ばれる) によって LTD4 に代謝されてしまう為、結合実験時にはその阻害剤としてセリン-硼酸複合体 (SBC) を加える。又、LTD4 は dipeptidase の作用によって LTE4 に代謝されてしまう為、その阻害剤として final 数 mM 程度のグリシン及びシステインを添加する。尚、LTC4 結合実験と LTD4 結合実験を同時に併せて行う際には、両者を同一条件にて比較検討する意味からも、それぞれの阻害剤を両方の結合実験に加える方が better であると考えられる。

「必要な試薬」

*Density-gradient buffer

  10 mM Hepes-NaOH (pH 7.4)

  1 mM EDTA

  0.5 mM PMSF

  250 mM Sucrose

*可溶化蛋白質用 buffer

  10 mM Hepes-NaOH (pH 7.4)

  1 mM EDTA

  0.5 mM PMSF

*SBC (Serine-borate complex)

  final 5 mM Serine, 10 mM Borate となるように反応液中に加えるので、その 50 倍濃度のストック溶液を予め作成しておき、実際のアッセイの場ではその 50 分の 1 量を加えればスムーズに事が運ぶでしょう。

*Binding buffer

  50 mM Hepes-NaOH (pH 7.4)

  40 mM MgCl2

  1 mM EGTA

  5 mM Serine

  10 mM Borate

  2 mM Cysteine

  2 mM Glycine

*Washing buffer

  50 mM Hepes-NaOH (pH 7.4)

  40 mM MgCl2

  0.1 % (w/v) BSA

*Cold LTC4 or LTD4

  cold displace は final 2 uM になれば良いので、その 4 倍濃度である 8 uM 溶液を作っておく。溶媒は勿論、Binding buffer である。この程度の濃度の溶液ならば普通はエタノール (LTD4 等の原液は通常エタノールに溶解している) の持ち込みは気にしなくて構わない。

「結合実験法」

1. 膜画分標品の調整

 ここでは、モルモットの肺、及び培養細胞からの調整に関して触れたい。

 1-A. モルモット肺からの膜画分標品の調整

 モルモット (ハートレー系、メス、250 〜 300 g、埼玉実験動物供給所より購入) をエーテル麻酔の後に Guillotine (ギヨティーヌ)にて断頭する。よく血を洗い流した後に、肺を摘出する。その肺を、1 mM EDTA を含む 50 ml の PBS (-) にてじゃぶじゃぶ血をよく洗い、然る後にその肺をキムタオルを用いて水分を拭い、その重量を量る。ハサミかなんかで適当に裁断後、重量の 5 倍量の Density-gradient buffer を加えてポリトロンにて 30 秒間 4 回ホモジナイズする。適当に氷で冷やしてサンプルの温度が上昇しないように気を附けねばならないことは言う迄も無い。ホモジネートを 1,000 x g で 15 分遠心した後、更にその上清を 10,000 x g で 15 分遠心する。その上清を 100,000 x g で 60 分超遠心し、そのペレットを適当量の可溶化蛋白質用 buffer で懸濁する。一様に懸濁するには、その懸濁液を Potter-Elvehjem homogenizer でくにゅくにゅしてよく懸濁しよう。一連の操作も全て 4 度にて行うこと。Protease が異様に気になる人は、PMSF 以外の Protease inhibitor、例えば Aprotinin, Benzamidine, Pepstatin 等じゃんじゃん入れてくれ。得られたサンプルは、BCA 法等で蛋白定量を済ませておくこと。

 1-B. 培養細胞からの膜画分標品の調整

 継代している細胞を PBS (-) や Hepes-Tyrode 等の適当な buffer で軽い遠心で 2 回程度洗浄する。細胞の体積の 20 倍程度の Density-gradient buffer に懸濁し、Sonication (Output 3, Interval 3, Preset 3 を 10 回程度。余り棒を深く刺しても浅く刺しても効果的では無いので、その辺のところは試行錯誤で経験的に掴むこと)、或いは Nitrogen cavitation (800 psi, 15 分)によって細胞を破砕する。ホモジネートを 1,000 x g で 15 分遠心した後、更にその上清を 10,000 x g で 15 分遠心する。その上清を 100,000 x g で 60 分超遠心し、そのペレットを適当量の可溶化蛋白質用 buffer で懸濁する。一様に懸濁するには、その懸濁液を Potter-Elvehjem homogenizer でくにゅくにゅしてよく懸濁しよう。一連の操作は全て 4 度にて行うこと。得られたサンプルは、BCA 法等で蛋白定量を済ませておくこと。

2. インキュベーション

 膜蛋白質は非常に重く、かつ凝集し易いので、実験を行う前にサンプルに 23G の注射針を何回か通して粘性を下げておく。又、分注時には毎回毎回 voltex を掛けて均一になるようにし、分注するイエローチップも先をハサミで切っておく位の工夫は欲しいところである。

 インキュベーションの際には 1 つのアッセイチューブ (Pyrex みたいなもので可) に final 0.25 nM の [3H]-LTC4 or [3H]-LTD4 、100 ug の膜蛋白質、cold displace のものには更に final 2 uM の cold 体の ligand を含む。

 と言う訳で、以下の 3 種類の溶液を用意する。無論、溶媒は Binding buffer である。

#1 蛋白質溶液; 1 tube 当たり 100 ug / 100 ul を本数分用意。

#2 hot ligand 溶液; 1 tube 当たり hot 1 nM / 50 ul を本数分用意。因みに、DuPont NEN 社から発売されているトリチウム体の LTC4, LTD4 (コード番号はそれぞれ NET-1018, 1019) はほぼ 50 nM 溶液 (in 65 % methanol) になっていることを知っておけば目安になるでしょう。

#3 cold ligand 溶液; 1 tube 当たり cold 8 uM / 50 ul を本数分だけ用意。

 実際のインキュベーションであるが、1 つの hot の濃度、即ち 1 点に対して duplicate で測定する。そして、hot だけを含むものと、cold displace を行うものとでそれぞれ duplicate なので、結局 1 点に 4 つの assay tube が並ぶことになる。Scatchard analysis を行う場合には hot の濃度を何点か、cold displace curve を描かせる場合には cold の濃度を何点か振ることになるでしょう。

 hot だけを含む tube (これは Total binding activity を表す) には、1 tube 当たり 50 ul の Binding buffer と 50 ul の#2を、cold displace を効かせる tube (これは Non-specific binding activity を表す) には、50 ul の#3 と 50 ul の#2 を加え、最後にそれぞれに 100 ul の#1 を加えて、final 200 ul scale でインキュベーションを 24 度で 30 分行う。正確な計測値、精密な cold displace を効かせる為に膜蛋白質溶液を最後に加えること。

3. bound と free のリガンドの分離

 膜画分では Whatman GF/C グラスフィルター (径は 24 or 25 mm) を用いる濾過法で行う。可溶化蛋白質では、Whatmann GF/B グラスフィルターを 0.3 % polyethyleneimine (pH 10) 中で一晩前処理した後に使用する。フィルターを Millipore 製の 12 well の濾過器の各ウェルの上にのっける。上蓋を乗せ、ネジで固定しポンプで吸引する。この時、濾過器の各ウェル上のフィルターに wash buffer を注ぎ込み、確かに吸引されていることを確かめること。Incubation tube に 4 ml の wash buffer を加え、その全量を濾過器の各ウェル上のフィルターにぶちまける。Tube に 2 ml の wash buffer を加え、その全量を濾過器の各ウェル上のフィルターにぶちまけ、各ウェル内の液が吸引されると同時に次の wash buffer を加え、計 4 〜 5 回洗浄する。

 結合反応と解離反応は互いに逆反応 (平衡反応) であるので、吸引が弱いとその間に幾分は解離することになるから、吸引は強くして、アッと言う間に吸引されてしまってるようにするのが良いだろう。又、可溶化蛋白質の場合には、PEG と BSA を用いて蛋白質を沈澱させてフィルターに trap させる方法も可能である。

4. 放射活性の測定と特異的結合の算出

 濾過洗浄したグラスフィルターは、50 度のオーブンで 1 時間乾燥後、シンチレーションカクテルを適量加えて液体シンチレーションカウンターにて放射活性を測定する。この時、計数効率を一定にする為、全フィルターが透明になるまで待つこと。Total binding activity から Non-specific binding activity を減じた値を Specific binding とする。

 筆者の経験上、10 万 g のペレットに、final 2.5 〜 5 % 程度の Glycerol を加えると、binding の値が良くなることが有ったので、試して頂きたい。

「おわりに」

 どうしても神経質な人は、本当にインキュベーション中にロイコトリエンが代謝されていないかどうかを調べてみると気が済むでしょう。インキュベーション前後のアッセイ系の HPLC 分析を行ってみましょう。SBC や Cys, Gly の阻害剤をちゃんと入れていれば大丈夫だということがお分かり頂けることと思う。それでは、健闘を祈る。

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