用途によるゲノム調製法の使い分け(魚住)

現在(98.4月)、我々が利用可能なマウスゲノムの調製法は以下の通りです。

    1. SDS系バッファーを用い、手作業で抽出する

    2. Tween-20/NP-40系バッファーを用い、抽出しない

    3. Mag Extractor (TOYOBO、一階N107室)を利用する

目的や検体数に会わせて方法を選んで下さい。

長所・短所を列挙すると、

    得られるDNAの長さ 1 > 3(平均20 Kb強) >> 2(平均1.5 Kb強)

    得られるDNAの純度 3 ≒ 1 >> 2

    簡便さ       2 > 3 > 1

    回収率       未検定

という感じになります。

ゲノムサザン解析を計画しているなら、2の方法は勧められません。培養細胞から抽出したDNAより切れにくい(不純物のせい?)感じですので、制限酵素反応は時間にゆとりを持っておこなって下さい。

PCRを考えているなら、いずれの方法でも可能です。2の方法ではテンプレートDNAがランダムに断片化してしまっているので、長い産物を効率よく増やすことは期待できません。1 kb位までの産物を目的とし、多検体処理する場合には最適の方法です。PCRのテンプレートに使うDNAは、ある程度nickが入っていたり断片化していたりする方が増幅効率が良くなるので、抽出したDNAの場合、凍結再融解してやると安定した結果が出る傾向にあります。凍結、融解はDNAを損傷する目的でおこなうので、それなりにいい加減でかまいません。DNAポリメラーゼは、混合型が適していると思います。我々が常用しているのは、ExTaq(TaKaRa, RR001-A, \29,000-, 250U)、KOD dash(TOYOBO, LDP-101, \25,000-, 250U)です。Pol I型のAmpliTaq  Gold(Perkin Elmer, N808-0240, \28,000-, 250U)を使っている研究室もあるようです。

その他、全血からのゲノム抽出キットとしてジェンとるくん(TaKaRa, 9801, ¥20,000-, 200回)というものもあります。どの方法を用いるにせよ、一度は得られたDNAの電気泳動をおこない、長さや量の見当をつけておくことをお勧めします。


尾からのゲノムDNAの調製(サザンハイブリダイゼーション用)(石井聡)

4週齢以降のマウスの耳にイヤーパンチャーで穴を開けた後、尾を5〜10 mm切断して同じ個体識別番号を記した1.5 mlのエッペンドルフチューブに入れる。血液のコンタミを防ぐため、一回の切断ごとにハサミを消毒用エタノールでよくふく。尾は1〜2時間ぐらいなら室温で放置しておいても構わない。ただし-80℃で凍結して保存する。

サザンをするためのサンプルを調製する時は、以下の反応液へ入れる直前にさらにハサミで尾を1 mm位の輪切りにする。(もちろん尾は解凍されていても構わない。)

サンプル一本当たり500 microliterの以下のストック溶液をサンプルの数の分だけいったんチューブに取り出す。20 mg/ml ProteinaseK(凍結保存)をサンプル一本当たり5 microliter加えよく混ぜてから500 microliterずつサンプルへ分注する。この酵素は安定なので室温で操作でき、また混ぜてから1〜 2時間ぐらい経っても支障はない。

20エSSC 4.4 ml

1M Tris-HCl (pH7.5) 1.0 ml

0.5M EDTA 0.2 ml

10% SDS 10.0 ml

H2O 84.4 ml

total 100.0 ml 

各サンプルへの分注の際には、クロスコンタミネーションに注意する。

37℃でO/Nインキュベートする。チューブは横に倒して少し浸透させた方がいいかもしれない。ただし尾が反応液から飛び出して取り残されるようなことがないように注意を払う。(55℃の反応はやってはいけない。この反応条件下ではたとえ時間が短くてもDNAの断片化が起きて、以下で述べる白いひも状のDNAが得られない。またサザンできれいなバンドも得られない。)

500 microliter(等量)のTE飽和フェノールを加え、レシプロ120/minで30分間混ぜる。(時間は半分でもいいと思う。)

5分間遠心する。

フェノールとの界面にある不溶物を吸い取らないように、水層を450 microliter(9割)回収する。(先端の吸い口が広いピペットマンチップを用いる必要はない。)

450 microliterのTE飽和フェノール/クロロホルム混合液を加え、レシプロ120/minで15分間混ぜる。

界面にある不溶物を吸い取らないように、水層を400 microliter(8割)回収する。

400 microliter(等量)のイソプロピルアルコールを加えて、チューブを何回か逆さまにしてよく混ぜる。白いひも状の不溶物(DNA)が現われる。(白いひもが現れないとき、または極少量の時は以下のプロトコールには従わない。このときは数分間チビタンで遠心すると白い沈殿が底に落ちているので、これをプラスミドと同じ要領で70%エタノールでリンスし、100 microliterのTEに溶かす。)

このDNAを黄色いピペットマンチップですくい取り、400 microliterの70%エタノールが入ったチューブへ移す。DNAがチップの先端に付着して剥がれにくいことが多々ある。液を吸ったりはいたりしているうちに剥がれることが多いが、どうしてもチップから離れないときは、新しいチップを手に持ちそれを使って物理的に剥がし取る。液を吸ったりはいたりしているうちにチップの穴にDNA詰まらせたときは要注意である。このとき決して親指の力をゆるめないこと。チップ内を陰圧にしたときにDNAが剥がれてピペットマン本体に入ってしまうとピペットマンが「DNA汚染」してしまう可能性が高い。このときはいったんチップをピペットマンから外してから親指をゆるめ、再びチップを装着してDNAを押し出す。

レシプロ120/minで5分間混ぜる。

沈殿をすくい取りアルコールをじゅうぶん切った後、100 microliterのTEへ入れる。

4℃でO/Nで溶解する。急ぐときは時々混ぜながら、45℃で1時間位インキュベートする。ただしこのときもこれ以上高い温度の熱はかけない。DNAの断片化が起きる。

10 microliterを制限酵素で切断する。20 microliterの系でScaIと一晩反応させた場合、うまく切断されていた。


尾からのゲノムDNAの調製(PCR用)        (石井聡)

1. Obtain about 5 mm of tail and place directly into 500 microl Lysis Buffer (see below) in a 1.5 ml microfuge tube. Alternativeley, tails can be stored at -20 degree after standing at room temperature for a couple of hours.

2. Incubate at 65 degree with gentle shaking for 2 hours, and then at 55 degree overnight.

(3. Option. Detect the quality of the genomic DNA by 1.0% agarose gel electrophoresis. 10
microliter of the lysate is sufficient for the detection. Unless DNA of > 4 kb is detected, the
sample is not suitable for the following PCR reaction.)

4. Heat samples at 95 degree for 10 min in a PCR machine or by boiling to inactivate Proteinase K.

5. Proceed to PCR using the tail DNA as template. Ten % (v/v) tail DNA solution is compatible to the KOD dash DNA polymerase.

-----Contents of Lysis Buffer-----

50 mM KCl
10 mM Tris-HCl (pH 8.3)
1.5 mM MgCl2
0.1% Gelatin
0.45% Tween-20
0.45% NP-40 (Nonidet P-40)
125 microg/ml Proteinase K

For 500 ml final volume:

1 M KCl 25.0 ml
1 M Tris-HCl (pH 8.3) 5.0 ml
1 M MgCl2 0.75 ml
10% (v/v) Tween-20* 22.5 ml
10% (v/v) NP-40* 22.5 ml
Gelatin 0.5 g

Fill up to 500 ml with ddH2O and dissolve gelatin granules by incubating at about 40 degree.

Add 6.25 ml 10 mg/ml Proteinase K** and mix well.

Store frozen in 500 microl aliquots in about 1000 of 1.5 ml microfuge tubes.

*SDS cannot replace these detergents because of its strong inhibitory effect on PCR.

**Proteinase K stock is stored at -20 degree.


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