9月11日からアメリカは変わったという。なにせ、本土が直接攻撃されたのは初めてだし、その被害のすさまじさは、アフガンへの武力行使を当然とする風潮が生まれ、また、それまで低迷していたブッシュ大統領の支持率を一挙に88%に押し上げた。この様な中で、FBIは次のテロを警告したし、私の今回の米国行きも相当悩んだ結果であることは言うまでも無い。米国とイスラム過激派の間の戦いは、今後何年も続くものだろうから、今やめて、来年の学会に行く理由も無いし、また、テロが物よりも人の心を破壊するのが狙いだとしたら、普段通りの生活を送ることがテロに対する回答かもしれない、科学者は普段通りに研究をし、学会にも参加するということでテロと戦うのだ、こんなことを考え、自分なりに米国行きを決めた。報復攻撃をしているアメリカを支持しているわけではもちろんない。
ナッシビルの学会では45分間の基調講演を行った。参加者は300名近い脂質メディエーターの研究者で、50人程度がキャンセルしていた。学会の主要なトピックスはやはりシクロオキシゲナーゼー2(Cox-2)とガンの関係で、実際、色々なプロモーター支配下にCox-2を発現させたトランスジェニックマウスは見事なガンを形成した。
ナッシビルでは15年ぶりにCarol Rouzer博士と対面した。彼女はもちろん、カロリンスカで同じ時代を過ごし、5−リポキシゲナーゼの精製とカルシウム依存性の膜移行を最初に見つけた人物である。メルクに移った後、研究所をやめ、暫く教育職を続け、昨年ナッシビルのVanderbilt大学の研究者となり、今回の学会の組織委員ともなっていた。彼女が暫く充電期間をおいて、研究に戻って来たのは大変嬉しいことであった。
ナッシビルの後、飛行機でNew WarkへそこからNew Jerseyに出来たAventis Pharmaを訪ね、Robert Lewisを初め、数十人の研究者を前に講演した。NYではコロンビア大学を訪ね、中西香爾博士のグループやSteve Feinmark、また、NYUのHong博士や西山博士と楽しい時間を過ごした。WTCの破壊後は未だに生々しく、煙が立ち上り、あたり一面に焦げ臭い匂いが漂っているが、NY市民は一時のショックから抜け出し、活気と理性を取り戻しているように見えた。会話は自然とテロの問題になるが、「アフガンでベトナムと同じことの繰りかえしにならないか」「なぜ、アメリカが狙われるのか」「テロリストを受け入れているのも、また、飛行機操縦を教えたのもアメリカだ」など、アメリカの持つ矛盾が自然と重い話題となった。
- 写真1 Vanderbilt大学の講堂で開かれたセッション。John A. Oatesの肖像画も見える。
- 写真2 学会会場のLoews Vanderbilt Plaza
- 写真3 ナッシビル郊外のRouzer夫妻の庭
- 写真4 WTC周辺の焼け跡
- 写真5 WTC隣の建物も焼け落ちた
- 写真6 New Jerseyのトレイルから見るハドソン川
- 写真7 Columbia大学のメインキャンパス
- 写真8 Columbia大学の中西香爾教授のグループ
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