近況 (1999年7月5日〜2000年6月14日)

日本脂質生化学研究会(小倉)(2000年6月14日)

(ホテルからの小倉湾)

  

(ノックアウトマウスでのPAF定量を話す進藤君(D1))  (ロイコトリエン受容体を発表する小笠原君(D2))


第42回脂質生化学研究会が小倉で開かれた(産業医大 古賀洋介教授世話人)。参加者の数は決して多くはないが、次世紀の研究テーマの一つが脂質メディエーターであることを考えると、重要で、しかも内容の濃い学会であった。脂質メディエーターはもちろん、脂質代謝ではまだわからないことがたくさんあることも明らかとなった。この種の学会の特徴は、何と言っても少人数で会場も少ないために、熱心な議論が出来ることだ。薄層クロマトグラフィー、HPLCなど、普通の学会では見ることの少なくなったデータを見ることが出来るし、また、全てが口頭発表なので、大学院生の教育にも大変良い。来年は6月に帯広で開催されるが、脂質生化学の分野はこれから非常に重要になるように思われる。


第11回国際プロスタグランディン学会(フィレンツエ)(2000年6月10日)

 
 (集合写真)                   (カナダメルクの研究者達)


(ロイコトリエン受容体の結晶化を進めるParelloとBaneres(フランス)、と和泉助教授)

 
(フィレンツエの街)              (ダビデ像の前で)

去る6月4日から8日まで、花の都フィレンツエで国際学会が開かれた。基礎、臨床や企業の研究所から述べ1000名近い参加者があり、この分野の広がりの大きさを示した。プロスタグランディンの研究は峠を越したとの評論はいままで何度もあったが、新しいホスホリパーゼA2の発見、シクロオキシゲナーゼー2の発見、各種のノックアウトマウスより意外な表現型が現れ、興味はさらに大きくなったように思われる。細胞情報からは8題の演題が出された。その内容は次の通りで、いずれも最新の発表で、活発な議論をよんだ。
Shimizu, T. Leukotrine B4 receptor: from clone to clinic (invited lecture)
Izumi, T. Localization and translocation of enzymes involved in leukotriene biosynthesis (oral)
Ishii, S. Critical roles of PAF receptor and cPLA2 in acute lung injury (oral)
Yokomizo, T. Structure and functions of leukotriene B4 receptors. (oral)
Hanaka, H. NLS and NES dependent mechanisms determine the localization of 5-lipoxygenase (poster)
Ide, Y. Intracellular localization of LTA4 hydrolase (poster).
Toda, A. Cloning and characterization of rat leukotriene B4 receptor (poster)
Ogasawara, H. Cloning and expression of the mouse leukotriene D4 receptor (poster)


井上研と東京ドーム決戦(2000年3月18日)

井上圭三先生の退官を記念し、3月18日東京ドームで野球大会を行った。7時から のナイターで、使用料は約70万円(これにスコアボードやウグイス嬢がつくとさら に高くなる)。参加者一人1万円で、ドームでの野球が楽しめる訳である。井上研は 東大の総長杯での準優勝の経験もあり、完敗するとのおおかたの予想を裏切り、7: 6の1点差で負けた。その後、近くの飲み屋で両教室の交流会が開かれた。井上研は 脂質生化学を中心に、タンパクから遺伝子までしっかりした研究をしているという意 味で、我々も学ぶところの多いところである。これを機に、脂質メディエーターを巡 る良い共同研究が出来れば、との思いだった。帝京大学の和久先生も参加し、果敢に ホームスチールを敢行し、途中で転倒するなど大騒ぎだったが、若い人の範になれ ば、と言うのが先生の説である。


第22回分子生物学会開催される(1999年12月18日)

(PSPのポスターには人だかり)                  (説明する中谷)

(博多ドームでの展示)                  (博多の魚料理)


12月7日から10日まで、博多ドームで第22回分子生物学会が開催された。博多 ドームでのポスター展示と機器展示はなかなか壮観で(写真1)、また、客席でのんびりと討論したり食事も出来るとあって大変好評だった。教室からは7名が参加し、加藤は「脂質メディエーター」のワークショップで発表をし、その他のメンバーは大会場でのポスター展示となった。ポスターは二日間にわたって貼られ、ポスターの説明もあり、なかなか活発な討論が進められた(写真2,3)。脂質生化学は遅れた分野で、分子生物で取り上げられるのも珍しいが、これからのポストゲノムの時代にその重要性は増すであろう。夜はもちろん、博多の町へ。アメリカから参加した教室OGの坂中さんも加え(写真4)、魚料理に舌鼓をうった。


ボストン学会に参加して(1999年9月27日)

    

       (レストランAnagoにて、清水、Jim Clark, 粂)     (Charlie, Birgitta夫妻(今回の主催者、ハーバードクラブでの夕食))

(横溝とDr. Devchand(ロイコトリエンの細胞膜受容体、核内受容体の発見者))

9月12日より15日まで、ボストンでプロスタグランディンの国際学会があった(http://eicosanoid.science.wayne.edu/)。全体で350名を越す活発な学会で、日本からも30名近く参加した。教室からは7名が参加し、口演6題、ポスター1題の発表をした。口演発表は以下の通りである。T. Yokomizo; Leukotriene B4 receptor:structure, transcriptional regulation and intracellular signaling. T. Izumi; Localization and translocation of enzymes involved in the synthesis of leukotrienes. T. Shimizu; Role of cytosolic phospholipase A2 in vivo and in vitro. N. Ito; Signaling to release lysosomal enzyme by leukotriene B4 and platelet-activating factor. S. Ishii; Role of platelet-activating factor in acid-induced lung injury. ポスター発表は加藤が行った。K. Kato; Transcriptional regulation of human leukotriene B4 receptor. 我々のグループは脂質メディエーターを酵素から受容体まで、広く研究し、成果を挙げていることが自負できる。同窓の粂くんとも会い、元気そうな様子を喜んだ(彼はちなみに、留学後4ヶ月でCellに論文を発表している。 Cell 98, 193-205, 1999)。論文の上でしか知らない人々とこうして会い、有益な情報交換を進めた。なお、Young Investigator Awardが米国のT. Hla (Edg-1・スフィンゴシン1リン酸受容体の発見), カロリンスカのP-J. Jakobsson (PGE synthaseのクローニング)と教室の横溝(ロイコトリエンB受容体クローニング)の3名に与えられた。来年の6月にフローレンスで再開することを約束して、我々はハリケーンFloydが襲撃したボストンを後にした。一つだけ追加すると、PGE synthase, FLAP (five lipoxygenase activating protein), LTC4 synthaseの三つは同じ遺伝子ファミリーに属し、構造も類似している。これら遺伝子はMAPEG (membrane associated proteins involved in eicosanoid and glutathione metabolism)と呼ばれ、小胞体、核膜を4回貫通すると考えられる。




San Francisco, Seattle旅行を終えて(1999年7月5日)

(中村君(チュラリック)と坂中さん(カイロン))       (Larry Tjoelker at ICOS)

 

(Professor Mike Gelb at Locks)               (Climbing Wall in REI)

今回、Ernst Schering Foundationの主催で、エイコサノイドカンファランスが開催された。シンポジストはSir John Vaneを含む13名で、二日間にわたり熱心な討論がなされた。この中で、エイコサノイド研究の基礎的進展と同時に種々の受容体拮抗薬や酵素阻害剤の開発への道筋が発表された。ホスホリパーゼA2がARDS (acuterespiratory distress syndrome)の発症に重要な役割を果たすとの我々の研究成果も反響を呼んだようだ。これらの研究成果はまもなく単行本として出版される。二日間のワークショップの後、我々の教室の卒業生である中村元直君(現、Tularik社)、否坂中知恵さん(現、Chylon社)と会う機会が持てた。二人ともカリフォルニアの生活を楽しみながら、創薬を含めた新しい仕事の開拓を進めていた。7月1日に、以前からの憧れの町であるSeattleを訪ねた。あいにく、この土地に典型的な雨模様だったが、美しい自然に囲まれた落ち着いた町をすっかり気に入ってしまった。初日はホスホリパーゼA2の研究で有名なワシントン大学のMike Gelb教授と過ごし、翌日は朝8時からICOS社研究所を訪れた。ICOSは現在組換えPAF分解酵素の臨床治験に入っている。SeattleはICOS以外に、Microsoft社、Bowing社、Starbucks Coffee、それとアウトドア製品で有名なREIなどの発祥の地としても有名である。もちろん、美しい緑の環境の中にあるUniversity of WashingtonのBiochemistry教室は40名のスタッフからなり、全米で屈指の研究を進めていることは言うまでもない。

(文・写真共に清水孝雄)



過去ログはこちら。

1998年7月23日〜10月19日

1998年11月10日〜1999年4月9日


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